1 プロンプトとは

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プロンプトとは:AIを操る「言葉」を理解する

これまでの章で、私たちは生成AIがどのようなもので、公務で活用する上でどのような準備と注意が必要かを見てきました。多種多様な生成AIツールが存在することもご理解いただけたと思います。しかし、これらの強力なツールを実際に動かすために、最も重要な要素が「プロンプト(Prompt)」です。

プロンプトとは、一言で言えば「生成AIに対する指示文」のことです。AIは、このプロンプトの内容を理解し、それに基づいて文章や画像、コードなどを生成します。
例えるなら、プロンプトはAIに対する「命令書」であり、私たちがAIに「こうしてほしい」と伝えるための唯一の「言葉」です。この言葉の選び方一つで、AIが生成する結果は大きく変わってきます。

1. なぜプロンプトが重要なのか?:AIの性能を引き出す鍵

「AIは賢いから、適当に聞いても答えてくれるんじゃないの?」と感じるかもしれません。
確かに、簡単な質問であれば、AIはそれなりに答えてくれます。しかし、あなたが本当に欲しい情報や、期待通りの成果を得るためには、プロンプトをいかに正確に、そして具体的に設計できるかが極めて重要になります。

AIは、人間のように文脈を「察する」ことはできません。私たちが曖昧な指示を出せば、AIは学習した膨大なデータの中から「最もらしい」と判断した、しかし必ずしも私たちが求めていない答えを生成する可能性があります。
これは、人間相手でも同じですよね。「適当にお願いします」と言われて、完璧な成果物が出てくることは稀です。

プロンプトが重要である理由は、主に以下の3点に集約されます。

  • AIの理解度を深める: 具体的で明確なプロンプトは、AIが私たちの意図を正確に把握する手助けとなります。曖昧な表現は誤解を招き、期待外れの結果につながります。
  • 生成物の品質を向上させる: プロンプトが具体的であればあるほど、AIはより的を射た、高品質なコンテンツを生成できます。欲しい結果へ「舵を切る」のがプロンプトです。
  • 作業の効率を最大化する: 最初のプロンプトで目的の結果に近いものを得られれば、その後の修正作業を大幅に減らすことができます。これは、公務における業務効率化に直結します。

例えば、あなたが広報誌の作成担当者で、AIに「文章を書いて」と指示したとします。AIは一般的な文章を生成するでしょう。しかし、「〇〇区の夏祭りについて、小学生にも分かりやすい言葉で、親しみやすい広報文を1000字程度で書いてください。特に安全対策について触れ、親子で楽しめるイベントであることを強調してください」と具体的に指示すれば、AIはあなたの意図を正確に理解し、よりニーズに合った広報文を生成してくれるはずです。

2. プロンプトはAIとの「コミュニケーション」

プロンプトは、単なる命令ではありません。それは、私たちがAIと効果的にコミュニケーションを取るための「言語」であり、AIとの「対話」を始める第一歩です。良いプロンプトを書くことは、まるで、的確な質問を投げかけ、AIから最良の答えを引き出す技術とも言えます。

AIは、与えられたプロンプトから「文脈」「目的」「期待される形式」「制約条件」などを読み取ろうとします。私たちがプロンプトにこれらの要素をどれだけ盛り込めるかが、AIのパフォーマンスを左右するのです。

例えば、上司に報告書を提出する際に、「何か適当に書いておいて」という指示と、「〇〇に関する報告書をA4用紙1枚で、事実に基づき客観的に、結論から書いてください」という指示では、得られる報告書の質が全く異なるように、AIへの指示も具体的であればあるほど、良い結果につながります。

3. プロンプトの種類:目的別AIとの対話

プロンプトには、その目的によっていくつかの基本的な種類があります。

  • 質問プロンプト: 特定の情報を尋ねる。「〇〇の定義を教えてください。」「〇〇区の人口推移について教えてください。」
  • 指示プロンプト: 特定の行動やコンテンツの生成を命じる。「〇〇に関する要約を作成してください。」「この文章を500字以内に縮めてください。」「このデータからグラフを作成してください。」
  • 役割設定プロンプト: AIに特定の役割を演じさせることで、出力の質を高める。「あなたは経験豊富なベテラン公務員です。市民からの苦情に寄り添いつつ、解決策を提案してください。」
  • 制約プロンプト: 生成する内容の形式や長さを指定する。「箇条書きで3点にまとめてください。」「です・ます調で書いてください。」「中学生にも分かるように説明してください。」
  • 具体例プロンプト: 期待する出力の例を提示し、AIに学習させる。「以下のような形式で回答してください:[例]。」

これらのプロンプトの種類を理解し、組み合わせて使用することで、私たちはAIに対してより複雑で、より具体的な要求を伝えることができるようになります。

4. プロンプトは「試行錯誤」の芸術

完璧なプロンプトは、一度で完成するとは限りません。AIの特性を理解し、より良い結果を引き出すためには、試行錯誤が不可欠です。

  • 最初はシンプルなプロンプトから始めてみる。
  • 期待と異なる結果が出たら、プロンプトのどこが悪かったのかを分析する。
  • より具体的に情報を追加したり、表現を修正したりして、もう一度試す。
  • AIの回答からヒントを得て、さらに質問を深掘りしていく。

この「投げてみる → 修正する → 再度投げる」という繰り返しが、プロンプトのスキルを向上させるための最も効果的な方法です。まるで、AIという新しい楽器を演奏するために、何度も練習を重ねるのと同じです。

公務における生成AIの活用は、この「プロンプト」という魔法の言葉をいかに使いこなすかにかかっています。

【資料】プロンプトエンジニアリング基礎

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